宮廷女官若曦のおはなし(四阿哥と十四阿哥のこと)ながいよ。

というわけで、飽きもせずに中華ドラマのお話です。

宮廷女官若曦に登場する皇子たちの中で、ストーリー上特に重要なのは、上から順に四・八・十三・十四なのですが、その中でも同じ母親から生まれた四と十四は、対照的に描かれています。

二人の母である徳妃は、四阿哥を産んだときにはまだ身分が低く、息子を手元で育てることができなかったのが、皇子を産んだことで身分も上がり、十四阿哥は手元で育てることになります。(また、母親を亡くした十三阿哥も徳妃のもとで育てられます)

手元で育てた子のほうがかわいくなってしまうのはある程度仕方がないことであり、また四阿哥は幼少期に親の愛情を十分に受けたとは言い難いために性格的にも屈折しているので、徳妃としては、どうしても十四阿哥のほうを溺愛し、四阿哥に対しては冷たい態度をとります。

十四阿哥も、母親との間に溝があり感情を表に出さない四阿哥よりも、面倒見のよい性格の八阿哥(母良妃が家柄が低いために、八阿哥は皇帝からあまり好かれていなかったのを、努力で人望を集めるようになった、基本的には「とってもいい人」)になついてしまうわけです。

(そして、同じように徳妃に育てられたものの、自分の母に育てられなかった十三阿哥は、四阿哥の最大の理解者だったりするわけです)

十四阿哥は基本、愛されて育った人なので、性格はまっすぐなのですが、その分、現状に疑いを持っていない。現代人である若曦が、自由や平等という概念について口にしたときにも、十三阿哥は漠然と理解を示すものの、十四阿哥にはそれはばかげた考えに思えてしまうのですね。

そんな十四阿哥ですが、愛されて育った人らしいおおらかさと、それゆえにちょっと無神経に他人を傷つけてしまうところがある。

物語の中盤、八阿哥と若曦が恋仲になったことを誰よりも喜んでいた(義理の姉と呼んだりしていた)のは十四阿哥でした。そして二人が決別し、若曦が四阿哥と接近したときに、十四阿哥は若曦をののしります。人を傷つけて平気なのかと。ただ、それでも、若曦のことを嫌いにはなれない。何かと理由をつけては若曦のいる茶房を訪れ、十三阿哥が幽閉されたとき雨の中跪いているときには食べ物を差し入れたり、なんとか仲良くしようとします。

そんな中で、八阿哥が失脚する一方で、十四阿哥は大将軍王に任命される。皇太子が廃位されていた状況で、事実上の皇位継承争いの最右翼になったわけです。そして皇帝は、若曦を十四阿哥に嫁がせる命を出す。しかし若曦は四阿哥しか眼中にないために断って、皇帝の怒りを買い洗濯係(浣衣局だっけ?)に降格になる。いったいなぜ皇帝に逆らったのかを十四阿哥に尋ねられるけれど、本当のことは言えない若曦。西域で手柄をたてて一時帰京していた十四阿哥は「皇帝に何度も若曦をめとることをお願いしたがずっと断られた」と笑っている。このあたりのおおらかさは(その後のストーリーを考えると)人としてのスケールの大きさと、そして若曦という人間をなんとか理解しようとしている感じが見えて、とても好感が持てます。

一方で、十三阿哥の幽閉以後孤独に農業にいそしんでいるかに見えた四阿哥、十四阿哥が西域に行っている間に政務に復帰。いざ皇帝崩御の際には、皇帝側近を自分サイドの人間で固めていたために、遺言を捻じ曲げ(ということにこの作品中ではなっている/これを考え合わせると、先帝は若曦を次期皇帝の妃とすべきと考えていた、ということになります)皇位継承に成功する。西域から戻ってきた十四阿哥が新皇帝に礼を尽くさなかったという理由で、大将軍王から貝子へ降格させてしまう。

そして若曦は四阿哥改め雍正帝とやっと結ばれたりなんかするわけですが、正式に妃にするわけではなく、宮女のままにしておく。その理由を雍正帝は「妃にすると札で示したときにしか会えないが、妃でなければいつでも会える」とか説明するのですが、他の(元)皇子たちにしてみれば、さっさと妃にしない中途半端な状態では若曦がかわいそうだと思っている。

妃になれば一生、宮女ならば皇帝が決めた縁談を承諾するまで紫禁城からは出られない。姉の住む八弟の屋敷へいくのすらいちいち皇帝の許可が必要。雍正帝による八弟派粛清の中、自分が紫禁城にいる意味に疑問を抱いた若曦の気持ちを察した十四弟は、「紫禁城から出たいのならば、力になれる」と伝えます(ここも重要なシーンなんですね)。

(このへんで、若曦は「兄弟なのにどうしてそんなに」というのだけれど、雍正帝は「あの勇猛だった十三弟が彼らの罠による幽閉で今やあんなに病弱になってしまった」と答えます。宮中でも、雍正帝にとって信頼できる人間は、十三弟と若曦だけ、みたいな状態なわけですね。(だからその後八弟との関係を知らされた時に「裏切り」と感じて怒りが大きい)

その後、若曦の懐妊と流産、十三弟の幽閉と四阿哥が一旦皇位争いからリタイアしなければならなくなった理由が若曦と八弟との関係にあったと知らされ、雍正帝の怒りを買った若曦は十四弟の言葉を思い出し、十三弟に十四弟へ「話を受ける」との伝言を託ける。(十三弟はたぶんそれが何の意味だかはわかってない)

そして十四弟、雍正帝の前に、先帝の聖旨を手に若曦を側福晋として下賜するようお願いする(たぶん浣衣局に訪ねてきたときには、すでに褒美として先帝から賜っていたもの/そして、それがあっても、あくまでも若曦の気持ちを第一に、若曦が望んだときに若曦のために使おうととっておいたわけ)。

ここらへんほんと、十四弟は若曦のことを第一にかんがえているわけですよ。雍正帝は怒っているとはいえ若曦のことを寵愛しているわけだし、それを嫁に、というのは、皇帝の恨みを買ったり監視が厳しくなったりすることはあっても、十四弟自身にはいいことなんかほとんどないわけです。若曦が自分のそばにくることはうれしくても、若曦自身が十四弟を愛していない以上、いくら十四弟が若曦を好きでいても男女の関係になることもできないわけだし(若曦が「無理強いされること」を何よりも嫌っているのは周知の事実)。

でまあ、先帝の聖旨に逆らうわけにもいかず雍正帝も認めざるを得ないというわけで十四阿哥の屋敷に若曦が来る。当然そこには雍正帝密偵もいるわけなんですが、多少ならず雍正帝に恨みを持つ十四弟としては、若曦とわざとベタベタしてみたりするわけですね。その報告を受けた雍正帝は怒りと嫉妬で、密偵に以後報告不要と言ってしまう。

(ちなみにこのへんのシーンで、林更新くんの結構長い剣舞シーンあり。これはたぶんサービスショットではないだろうか。剣舞の良しあしなどわかりませんが、これだけ長く映すということはそれなりに見せ場だと考えているのでしょう。剣舞のあと、汗を拭いてもらおうと若曦に顔を突き出す甘えたしぐさとの対比が、もうめちゃくちゃキュートです。そこばっかり何度リピートしたことか)

死にかけた若曦が雍正帝宛に書いた手紙の表書きがあまりに雍正帝の字に似ているので、よけいな噂にならないように自ら表書きを書いた封に入れる十四弟。そのせいで、若曦の手紙を雍正帝が読むのは若曦の死亡の知らせが届いてからになる。

たぶん、ほんのちょっとやきもちを焼かせたかっただけのしぐさとか、ちょっと気をつかっただけのつもりの表書きとか、そういうことが若曦の「一目四爺に会いたい」(若曦の中では愛したのは四阿哥であって皇帝じゃないんですね)という願いをかなえる妨げになったことは、愛されて素直に育った十四弟には、愛されず育って(と少なくとも本人は思っている)孤独に耐えてきた雍正帝の屈折を理解できなかった、ということなのですね。

もしもこのストーリーで、若曦が自分を一心に思い続けていた十四弟と結ばれていたりとかしたら、それはありきたりのラブストーリーになってしまっていてつまらないかもしれない。でも私は、この十四阿哥、十四弟というキャラクターのおおらかさ、人としてのスケールの大きさは、やっぱり彼こそが本当は皇帝になるはずだったという作者の設定から考えても、魅力的で素晴らしいもので、どうしても彼を中心にストーリーを見てしまうのです。

追記:それにしても、時間経過が大きいんですよこの話。八阿哥が若曦を娶ろうとしたときには、何年も若曦を思っていたとかいう描写があるし、四阿哥に至っては、十三阿哥が幽閉されてから康熙帝崩御するまでの10年以上、ずっと若曦を思い続けていたわけなんですね。うーんさすが大陸、白髪三千丈の国(感心のしかたがおかしい)